キョーコが「私、敦賀さんと付き合うことにしたの」と言ったのを、不破尚は黙って聞いていた。男としての強いプライドが邪魔して、言いたい事が言えない。
「・・・・・・ふぅん」
興味無さそうに、半分強がりでそう言うのが、尚にとってはせいぜいだった。
「あんたには関係ないと思うけど」
尚が一方的にライバル視をして昔から「大」嫌いな敦賀蓮と、自分が付き合うというその事実について聞けば、きっとそれなりに復讐できるもしれない、そんな打算的な感情だけでキョーコも口にしている。
「よかったな。お前でももらってくれるおめでたいヤツがいるなんて」
キョーコはそんな言葉を待っていたわけではないから、カチンときたが、我慢して受け流した。
「そうね」
「幸せ、なんだろ?」
「・・・・・?あたりまえじゃない」
「それなら、いいんだ」
尚は、キョーコをじっと見つめて、
「オレに何て言って欲しかったわけ?」
と言った。
「え・・・・?」
「おめでとう?それとも、悔しがるオレの姿でも見たかった?オレが大嫌いな敦賀蓮との事をわざわざ報告しに来るなんてさ。」
「・・・・・・・・」
「オレは、「お前」が「敦賀蓮」を選んだんならそれでいいと思うけど。敦賀蓮がお前を選んでいたのは知ってたから」
「い、いつからっ・・・そんなの知ってたの」
「さぁ・・・」
尚は面倒そうに足を組みなおし、急に素に戻ったキョーコを見ながら、遠い日の記憶を掘り返していた。
「おまえ、本当に肝心な所は鈍感だからな。いい性格してるぜ」
「な、なによっ」
――誰の気持ちも気づきやしねぇし。
不破尚が視線を窓の外に逸らすと、一台の高級車が目に留まり、「あぁ・・・」と嘆息をもらした。
「先輩に送らせるとはいい身分だな。付き合うと先輩も足に使えるわけだ。」
「ち、ちがっ・・・これはっ・・・」
キョーコもさすがに弁解に入ろうとしたが、うまく言葉に出来なかった。
「鈍感ってのも、一つの特技なのかもな」
不破尚が、ぼそっとそう言ったのを、喧嘩を売られたのだと思ったキョーコは「またバカにして!」と言って憤慨した。尚は聞き流した。
「いいじゃねぇか。人間誰もが自己満足だけで生きてるんだ。お前が満足するような生き方すりゃあいい。それともオレにこうして会いに来るあたり「敦賀蓮なんてやめておけ」とオレに言って欲しいとか?それとも「オレもお前が好きだ」とか言ってすがる言葉が聞きたいとかな」
尚が言った言葉を聞きながら、キョーコは尚をじっと見つめていた。
「あんたにそんな台詞言われたくないわ」
その言葉を吐いたキョーコの目は、確かにその言葉に「興味が無い」目、だった。
好き、嫌い、以外のもう一つの感情、男として興味が無い。
そうしてキョーコの復讐は鈍感にも一つ完了する。
本人は気がつかないうちに・・・。
「もう帰れよ。先輩待たせてんじゃねぇ」
「じゃあね。この事は敦賀さんのマネージャーさんとあんたしか知らないんだからね」
そんな借りなんていらねぇよ、と尚は思った。
しかしある日突然ワイドショーで知るのと、こうしてすぐに言いに来るのと、どちらが良かっただろう。どちらにしても、結果は同じだけれども。
「せいぜいお幸せに。また別れたときは報告しに来いよ。「やっぱ遊ばれたんだな」って言ってなぐさめてやるからよ」
「なんないもん!」
「のろけんな。はやく帰れ」
「せっかくいい報告しに来てやったのに。じゃあまたね!そうそう、あんた、あの新曲の衣装はどうかと思うわ」
「お前にオレの素晴らしいセンスなんて分かるもんか。あの服を着られるのはオレぐらいなもんだ」
「あっ相変わらず憎たらしいこと・・・」
キョーコはじゃあね、と言ってすぐにドアから出て行ってしまった。
尚が一言、「相変わらず鈍感なやつめ」、と捨て台詞を吐いて、「一生教えてやらねぇ」と呟いた。
車中に戻ったキョーコが、
「敦賀さん、いつから私の事を好きだったんですか?ショータローってば知っていました」
と聞いたのを、蓮は苦笑いで受け流して、
「彼がそう言ったんだ?」
と、とぼけたフリをした。
キョーコは、
「でもなんでショータローが知っているんでしょう?いつ会ったんですか?」
と首をかしげて、不思議そうにしつづけた。
2007.12.17
実際本誌ではどうなるんでしょうね、尚さん。
言うんかな、言わないんかな。言わない感じのその後っぽく。